肛門周囲アポクリン腺癌は、犬で比較的多くみられる悪性腫瘍の一つです。
この腫瘍は腰下リンパ節(内側腸骨リンパ節や仙骨リンパ節など)へ転移しやすい特徴があり、転移したリンパ節が大きくなることでさまざまな症状を引き起こすことがあります。
当院では、アポクリン腺癌が腰下リンパ節へ転移した症例に対して、腹腔鏡を用いたリンパ節摘出術を実施しています。
従来、腰下リンパ節の摘出には大きな開腹手術が必要でした。 腹腔鏡手術では、お腹に数か所の小さな傷を作り、カメラで拡大視しながら手術を行います。 そのため、
といったメリットがあります。
腰下リンパ節は大動脈や後大静脈などの重要な血管に隣接していますが、腹腔鏡による拡大視野を活かすことで、周囲組織を丁寧に確認しながら摘出を行うことができます。
アポクリン腺癌の治療では、原発巣だけでなく転移したリンパ節への対応も重要です。
当院ではCT検査によって転移の程度や周囲組織との関係を評価し、それぞれの症例に最適な治療計画をご提案しています。
腹腔鏡下腰下リンパ節摘出術は、転移病変に対する治療と診断を兼ねた有効な選択肢の一つであり、動物への負担をできる限り抑えながら治療を行うことが可能です。
「転移していると言われた」
「リンパ節が大きくなっていると言われた」
「できるだけ負担の少ない方法で治療したい」
そのようなご不安を抱えて来院される飼い主様は少なくありません。
私たちは、病気に向き合うご家族の気持ちに寄り添いながら、一頭一頭にとって最適な治療を一緒に考えていきたいと考えています。
アポクリン腺癌やリンパ節転移でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
膀胱結石の定期検診のため来院されました。超音波検査を実施したところ、腰下リンパ節の腫大が認められました。
また、身体検査にて肛門周囲に腫瘤性病変が触知されたため、CT検査および細胞診(FNA検査)を実施しました。
検査の結果、肛門嚢アポクリン腺癌および腰下リンパ節への転移が疑われたため、後日、原発巣であるアポクリン腺癌の摘出術と、腹腔鏡下による腰下リンパ節摘出術を実施しました。
病理組織学的検査によりアポクリン腺癌および腰下リンパ節転移が確定診断されたため、術後1か月後に補助治療として電気化学療法を実施しました。
現在も定期的な経過観察を継続していますが、再発や新たな転移は認められておらず、良好な経過を維持しています。

横断像:造影後 門脈相

横断像(左寄り):造影後 門脈相

背断像:造影後 門脈相

矢状断像(左寄り):造影後 門脈相
左肛門嚢に結節を認め、肛門嚢アポクリン腺癌を疑います。
同側の腰下リンパ節が腫大しており、転移を疑います。どちらも病理検査による評価をお願いします。
その他、リンパ節腫大の原因となる様な所見は認めませんでした。
膀胱内には微小なポリープ様の所見を認めますが、非常に小さく特徴を判断するのは難しい段階です。
経過により細胞診をご検討ください。

手術の様子、摘出した腫瘤病変


傷口の様子

手術の様子

手術の様子

リンパ節を剥離している様子・摘出したリンパ節


傷口の写真


組織学的診断:
1.肛門嚢腫瘍:肛門嚢アポクリン腺癌
2.腹腔内リンパ節:転移性アポクリン腺癌
コメント:
肛門嚢アポクリン腺癌は7-12歳齢の犬において発生を認める悪性腫瘍であり、片側性もしくは両側性に発生します。
約25-90%の症例では腫瘍随伴症候群として高カルシウム血症が認められます。また、50-80%の症例ではリンパ節(仙骨リンパ節や腰下リンパ節)、肺、脾臓、肝臓、および骨などへ転移を示します(Pathology of Domestic Animals, 2016)。
本症例では、同時に提出された腹腔内リンパ節には、転移性病変が認められています。
術後の局所病変やその他の転移性病変の有無に対する注意深い臨床的なモニタリングをご検討ください。

術後1ヶ月後の傷口、電気化学両方の様子

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