王子ペットクリニック:学会発表26

肝動静脈瘻を含む中央および左肝区域切除後に段階的後天性シャントの閉鎖を行なった若齢犬の1例

【演者】
○小林巧1)

【共同演者】
重本仁1)2),
鳥巣至道2),

【所属】
1)王子ペットクリニック
2)酪農学園大学 伴侶動物外科学ユニット

【はじめに】

肝動静脈瘻(HAVF)は肝内において肝動脈と門脈や肝静脈の間に短絡が生じた疾患である。犬のHAVFでは高圧の肝動脈の血流が低圧の門脈系に流入するために持続的な門脈圧亢進症を生じ,腹水の貯留や後天性門脈体循環シャント(APSS)を併発させることが多く,肝性脳症などの症状を呈する。HAVFの治療はHAVFに接続する肝動脈の結紮術あるいはHAVFを含む肝葉切除術やカテーテル塞栓術などの外科的治療が必要となるが、残存するAPSSにより予後は不良とされている。今回HAVFと診断され、HAVFを含む肝葉切除後に段階的にAPSSを閉鎖した若齢犬で良好な経過を得たためその概要を報告する。

【症例】

ボーダー・コリー、3ヶ月齢、雌。間欠的な下痢を主訴に受診。血液検査では肝酵素の上昇、BUNやALBの低値、NH3やTBAの上昇などが認められた。超音波検査では肝内の血管に乱流が認められ、腹水の貯留、APSSを疑う血管構造も認められた。CT検査では中央〜左肝区域の複数のHAVFとそれに伴う門脈圧亢進症、右肝区域の腫大と左肝区域の萎縮、APSSと診断された。

【臨床経過】

初診日より間欠的な下痢が続き体重も減少していたため、門脈圧亢進症の緩和のためにHAVFを含む中央〜左肝区域の切除を実施することとした。全身麻酔下で腹部正中切開を行い、中央肝区域と胆嚢を一括で切除し、左肝区域も合わせて切除した。肝葉切除後は腹腔内の出血がないこと、消化管の色調などを確認し定法通り閉腹した。術後に行ったCT検査ではHAVFは消失していたがAPSSは残存していた。術後15日目には高NH3血症は認められるものの、消化器徴候や腹水は消失し、体重の増加も認められた。その後も臨床徴候の再発はなく、順調に体重増加が認められ、初回の手術から189日目にAPSSの閉鎖と避妊手術を目的に再度開腹手術を実施した。腹部正中切開を行い、卵巣子宮摘出術を実施後、腸管膜静脈に留置針を設置し門脈圧の測定と門脈造影を実施した。門脈圧は11mmHg と正常値を示し、門脈造影では後大静脈へ短絡する多数のAPSSを認めたため、肉眼的に観察可能なAPSSを閉鎖した。閉鎖後の門脈圧は11mmHgであり、門脈造影ではAPSSの残存が確認されたが、全てのAPSSを閉鎖することは困難であった。同日に実施したCT検査では残存する右肝区域が以前より腫大していた。初回の手術から218日時点では食後のNH3は正常値を示しており、症例の一般状態も良好である。

【考察】

本症例ではHAVFを含む肝葉を切除することで臨床徴候の消失と体重増加が認められた。初回の手術時には右肝区域が発達していたため、残りの肝葉を切除しても著しい肝機能の低下は認めらなかった。また、症例は若齢で成長過程だったこともあり、2回目の手術時には残存する肝葉の更なる発達も認められ、良好な経過を辿っている。しかし、犬のHAVFは外科治療をしても残存するAPSSにより長期的な予後は不良とされているため、本症例も注意深く今後の経過を追っていく必要がある。また、近年犬のHAVFに対してカテーテルを用いた動脈塞栓術を実施した症例では外科手術よりも周術期死亡率が低く、予後も良いことが報告されており、今後はHAVFの発生した位置や症例の状態によって適応を検討したい。

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