王子ペットクリニック:学会発表25
スリップノットを用いて分割手術をした腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術の3例
【演者】
○重本 仁1)2)3)
【共同演者】
河津 充伸1),
小林1),
吉田 直喜4),
蘆立 太宏5),
金子 泰之3),
鳥巣至道2)
【所属】
1)東京どうぶつ低侵襲内視鏡センター(王子ペットクリニック)
2)酪農学園大学 伴侶動物外科学教室
3)宮崎大学 農学部附属動物病院研究室
4)ノヤ動物病院
5)あしだて動物病院
【はじめに】
犬の先天性肝外門脈体循環シャント(CEPSS)はシャント血管の閉塞によりQOLの改善が望める疾患である。近年、犬の腹腔鏡下門脈体循環シャント減圧術(LPSSA)の報告が増えている。これらの報告では閉塞 方法としてセロファンバンド(CB)が用いられており、門脈圧の測定はされていない。そのため術後の門脈 高血圧やシャント血管の誤認、再疎通などが課題として報告されている。我々は、LPSSA において門脈高 血圧により完全閉塞ができない症例に対して外科糸を用いた分割手術を実施し、完全閉塞が可能だったので ここに報告する。
【症例】
1. マルチーズ(雌、1歳 1ヶ月、2.86 kg、左胃静脈−後大静脈シャント)
2. シー・ズー(雄、8カ月、5.32 kg、左胃静脈−後大静脈シャント)
3. ノーフォーク・テリア(雌、5カ月、1.96 kg、脾静脈 – 後大静脈シャント)
【臨床経過】
当院にてLPSSAを実施した。3例とも左半仰臥位で固定し、シャント血管へのアプローチのため3〜4ヶ所にポート、門脈圧の測定のため1ヶ所にラッププロテクターを設置した。シャント血管を外科糸で確保 した後にラッププロテクターから腸管を腹腔外に牽引し、門脈圧の測定と門脈造影を実施した。仮閉塞後の 門脈圧は24〜34 mmHgであった。完全閉塞は不可能であると判断し、シャント血管を確保した外科糸に腹 腔外でスリップノットを作成してノットを腹腔内に進めていきシャント血管を部分閉塞した。部分閉塞後の平均門脈圧は10〜13mmHgに調節した。外科糸は腹壁を通して右腰傍窩の皮下に固定し、1回目の手術を終了した。数ヶ月後にCT検査にて肝内門脈枝の発達を確認し、2回目の手術を実施した。2回目の手術ではラッププロテクターのみを設置し、門脈圧の測定と門脈造影を実施した。シャント血管の仮閉塞後の門脈圧は 5〜15 mmHgであった。完全閉塞が可能であると判断し前回の手術で皮下に固定した結紮糸を体外から牽引してシャント血管を完全閉塞した。3例とも術後の合併症はなく、術後3日目に退院した。症例 1、2では術後2ヶ月の検診でシャント血管の再疎通を示唆する臨床徴候や血液検査の異常は認められなかった。
【考察】
仮閉塞後の門脈圧が高いCEPSSの症例ではCBやアメロイドリングが用いられるが、術後に門脈高血圧になることやシャント血流が残存すること、シャント血管が再疎通することが報告されている。そのため我々 は開腹下での外科糸を用いた部分閉塞による分割手術を第一選択としていたが、2回目の手術も1回目の手術同様に腹部を大きく切開する必要があった。今回実施した方法では2回の手術共に切開創が小さく、特に2回目の手術では腹腔内へアプローチする傷は小切開創1ヶ所(約3cm)のみで済み、癒着が少ないため手術時間も短く、開腹手術と比較して症例の負担が少なかった。LPSSAには技術を要し、開腹手術と比較して手術時間が延長する可能性もあるが、分割手術が必要な症例でもLPSSA が可能であることが示された。