王子ペットクリニック:学会発表24
犬の先天性肝外門脈体循環シャント33症例における腹腔鏡手術の回顧的研究
【演者】
○重本 仁1)2)3)
【共同演者】
河津 充伸1),
小林1),
吉田 直喜4),
蘆立 太宏5),
金子 泰之3),
鳥巣至道2)
【所属】
1)東京どうぶつ低侵襲内視鏡センター(王子ペットクリニック)
2)酪農学園大学 伴侶動物外科学教室
3)宮崎大学 農学部附属動物病院研究室
4)ノヤ動物病院
5)あしだて動物病院
【はじめに】
犬の先天性肝外門脈体循環シャント(CEPSS)の治療は、開腹手術にてシャント血管を閉塞させる方法が一般的である。2022年にPoggiらによって腹腔鏡下手術でセロファンバンド(CB)を用いたシャント血管の閉塞術が比較的安全に実施可能であったと報告がなされた。しかし、この報告はシャント血管の同定が困難で10%で開腹移行しており、更に術後に15%で門脈高血圧(PH)を起こしていた。そこで我々が実施している腹腔鏡下先天性門脈体循環シャント閉塞術(LAPPSO)がこれらの問題点を解決し安全に実施できていたかを回顧的に検討した。
【症例と方法】
症例は2014年6月から2021年3月に王子ペットクリニックに来院し、LAPSSOを実施した症例のカルテを回顧的に調査した。術前に全症例でCT血管造影検査を行い、腹腔鏡で手術が可能だと判断した39頭で手術を実施した。またその中で結紮方法としてCBを使用した症例や部分結紮を実施した症例は今回除外し、完全結紮が可能であった33頭で研究を行った。手術は3ポート法で実施し、体位は、横隔静脈と奇静脈シャントにシャントするタイプは、右横臥位で保定し、右腎の頭側の後大静脈にシャントするタイプでは、左横臥位で保定した。全症例で門脈圧(PVP)の測定と門脈造影を実施した。右横臥位の場合は、経皮的に脾髄内圧と門脈造影を行うSP法か、SP法を行わない場合や左横臥位の場合は、臍のやや上約2-3cmを小切開しラッププロテクターを装着し、空腸を体腔外に出して定法通りのPVP測定と門脈造影を実施した(LPPV法)。
【成績】
雄が13頭(7頭は不妊雄)、雌が20頭(10頭は不妊雌)、年齢中央値33ヶ月(範囲6-99ヶ月)、体重は中央値 4.2kg(1.5?8.7kg)、犬種はM・シュナウザー7頭、トイ・プードル6頭、ヨークシャー・テリア5頭、マルチーズ3頭、シー・ズー3頭、柴犬2頭、雑種を含む各犬種が各1頭であった。シャントタイプは左胃静脈‐横隔静脈シャントが16頭、左胃静脈‐奇静脈シャント6頭、右胃静脈‐後大静脈シャントが5頭、左胃静脈‐後大静脈シャント3頭、脾静脈-後大静脈1頭、脾静脈-奇静脈シャント1頭、右胃静脈-左胃静脈-後大静脈シャント1頭であった。シャント血管閉塞までの時間は平均58分(28-109 min)、完全閉塞後の平均PVPは11mmHg(4-16 mmHg)であった。全症例でシャント血管を目視することは容易であった。術中の合併症はなく開腹移行した症例はいなかった。術後発作症候群を起こした症例は2頭いたが2頭とも無事に退院することができた。また、術後2ヶ月以内にPHの症状を呈した症例やシャント血管の再発を疑わせるような症例、死亡した症例はいなかった。
【考察】
今回、LAPPSOで完全結紮できると周術期に判断し、実施できた犬を回顧的に研究したが全例で良好な結果が得られた。犬のCEPSSにおいてCBを用いた手術ではシャント血管の誤認、シャント血管の残存、術後PH、などの報告がある。したがって、腹腔鏡手術といえどもシャント血管の確認や術後のPHを未然に防ぐためには我々が行ったようにLPPV法やSP法を用いることは重要であると考えられた。また、手術の体位を工夫することでほとんどの症例でシャント血管を容易に目視可能であり、シャント血管を同定できるので不必要な開腹移行を減らせる可能性が示唆された。
【結論】
LAPSSOにおいても従来報告されているほとんどのシャントタイプで安全にPVP測定や門脈造影を行うことができることが明らかとなった。今後は完全結紮できない症例に対する治療法も検討する予定である。