王子ペットクリニック:学会発表17
自家および他家の脂肪由来間葉系幹細胞を投与した特発性炎症性腸疾患の犬の2例
草場○、長尾、重本仁
王子ペットクリニック
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【はじめに】
特発性炎症性腸疾患(以下、IBD)は、小腸や大腸の粘膜固有層における炎症細胞の浸潤を特 徴とする原因不明の慢性消化器障害を呈する症候群である。臨床症状として慢性的な消化器症 状が認められ、診断および治療が難しい疾患の一つである。今回、除外診断および診断的治療 を慎重に行い、内視鏡生検による病理学的検査に基づき IBD と診断が得られた2例に対し自家 および他家の脂肪由来間葉系幹細胞(以下、ADSC)投与を実施した。この2症例で異なる反応 が認められたためここに概要を報告する。
【症例・経過】
症例①
ミニチュア・ダックスフント、9 歳齢、去勢雄。定期健診にて低アルブミン血症を認めた。除外 診断および食事、抗生剤などの診断的治療を行い改善が認められなかったため内視鏡生検を行 った。病理学的検査にてリンパ管拡張を伴うリンパ球・形質細胞性腸炎と診断された。内視鏡 生検の際に脂肪を採取し、計 3 回 ADSC(細胞数 5.8×106、4.5×106、1.4×106)の投与を行 った。投与後血漿アルブミン値は安定し、第 565 病日経過後も食事療法のみで維持している。
症例②
ミニチュア・ダックスフント、4歳齢、避妊雌。他院にて低アルブミン血症を指摘され来院し た。当院において内視鏡生検を実施しリンパ球・形質細胞性・好酸球性腸炎と診断した後、自 家 ADSC(細胞数 4.5×105、2.3×105)を計2回投与した。投与後免疫抑制剤などの薬物治療 は必要なく経過していたが、投与 126 日(第 191 病日)に血漿アルブミン値が低下したため、 薬物治療が必要であると判断しプレドニゾロンおよびシクロスポリンによる治療を実施した。 薬物治療実施後血漿アルブミン値は上昇したが食欲不振、間欠的な軟便は改善されなかった。 第 594 病日から再び血漿アルブミン値が低下し、消化器症状が悪化したため他家 ADSC(細胞 数 1.75×106、1.2×106、5.0×105)の投与を計 3 回行った。しかし血漿アルブミン値は変わら ず、臨床症状も改善されなかった。現在はシクロスポリン注射薬による寛解後、通院治療にて 安定している。
【まとめ】
IBD は慢性消化器障害を生じる難治性の免疫疾患であり、診断がなされた後も治療に苦慮す る事が多く 6 ヶ月以内に亡くなることも少なくはない。症例①は自家 ADSC 投与後低アルブミ ン血症が改善され、投薬の必要なく維持が可能となった。これにより自家 ADSC の投与が IBD に有効である可能性が示唆された。症例①とほぼ同様の診断が得られた症例②は、自家 ADSC 投与により約 4 ヶ月ではあるが薬物治療を必要としなかったが他家の ADSC 投与に対する効果 は得られなかった。以上のことより IBD に対する長期的な維持には、3回以上の ADSC 投与が 必要であること、他家と比較し自家の ADSC の投与の方が効果が得られる可能性がある事、効 果は細胞数に比例するという可能性が示唆された。 IBD の症例に対して ADSC 投与を行った症例はまだ少ない。今後はさらなる効果を期待しす るとともに、症例数を増やし検討していく予定である.